憧れのヒンバと近付くことが出来て喜んでいる私とは裏腹にLesleyのテンションが異様に低い。
―――――――赤土で汚れたヨシダのことがマジで気にくわないらしい。
なんたってレンタカーだからね!
これで私が座ったらシート、赤土がベットリ付いて落ちなくなっちゃうからねー。そりゃ参るよね。
( クリーニング代とか請求された場合は私が責任持って払うからさー、機嫌直してよー! )とLesleyに
擦り寄ろうとしたら彼は険しい顔で思いっきり私のことを拒絶した。
すまぬ、Lesley‥‥
自分が赤土まみれであるということを私はスッカリ忘れておった。
この赤土、ヒンバ族以外の人からは非常に嫌がられる。
だってホントに全然落ちないんだもの、この赤土!
んでまぁ、ヒンバと散々戯れて日も暮れて来て宿に戻ろうにもLesleyが凄く躊躇していたんだよね、
この赤土まみれのヨシダを車に乗せることに。
そうやって躊躇していると、私のヒンバ姿に彼女たちはまだテンション上がってるから陽気に私の体を
リズミカルに叩きながら歌って踊り出すんだよね。
だから彼女たちが私の体を触れば触るだけ、更に私の体は赤土にまみれて汚れて行くわけで‥‥
Lesleyはドンドン追い込まれて行っちゃったんだよね、知らぬ内に。
そしたら半ばヤケクソ気味にLesleyが自分の着ていたベストとTシャツを脱いで助手席にセットして
「 座れ!俺の服の上に座れ!絶対背もたれに寄りかかんなよ。俺の服からはみ出んなよ! 」と。
はーい。ご迷惑おかけしまーす。
道が悪く激しく揺れる車内‥‥
でも、これ以上Lesleyの機嫌を損ねてはならんと一所懸命バランスを保ち続けること90分。
街が近付いて来るとLesleyはこう言った。
「 車が街に入ったら外から極力姿が見えないように座れ 」と。
Lesleyの服の上という狭いスペースでしか動けない私にどうやって身を隠せと言うのだ。
そもそも、どうして姿を隠さなきゃならないのか私には分からなかった。
これ以上車を汚さずに、どうやったら身を隠せるのかともたついている内に車はもう街の入口にいた。
Lesleyは諦めた顔をして車を走らせる。
すると、街の人の目線が刺さる。刺さる。めっちゃ刺さる。ヨシダ、めっちゃ見られてる。
時折"アイヤー!"とか"ヒャー!"というような声まで聞こえてくる。
そして身体能力の高いアフリカ人は好奇心だけで走って車を追いかけてくる。
そんな彼は車の窓越しにヨシダの姿を見て「 OH my GOD 」と叫んで何故か絶望した表情を浮かべる。
中には、わざわざ写メを撮りたいが為だけに全力疾走で車を追いかけてくる青年まで現れた。
そんで撮った後に「 お前スンゲェな 」と苦笑い。
どうやらヨシダ、見世物になってしまっているらしい。
あー、だから、Lesleyは私に隠れてろと言ったんだと、今更ながら理解するヨシダ。
そしてLesleyは悟ったような顔をして私にこう言った。
「 俺はこうなること分かっていた。ヒンバ以外はその赤土あまり好きじゃないから、宿に着いたら
絶対に宿のスタッフにバレないように部屋に入り込め。絶対バレんなよ 」と。
宿に着くなり、私はスタッフに見つからないようにコッソリ部屋に戻ってシャワーを浴びた。
だけど‥‥
洗っても洗っても、洗っても赤土が落ちない!
こんなに本気で体を洗ったのは初めてだと思う。
めっちゃ硬いナイロンのタオルと石鹸でゴシゴシ洗っても皮膚の中に入り込んだ赤土は全く落ちないし
力強く洗い過ぎて体がヒリヒリ痛くなって来た。
そして、翌日気を取り直して洗ってみるものの‥‥やっぱり落ちない。
結局この赤土は2週間弱落ちなかったんだけれども
時折、日焼けして黒いのか、それとも赤土で黒いのかすら分からなくなっていたヨシダでした